2025年2月13日

【コラム】オオズワイガニの急増にみる水産物流通の課題


ニュースなどでも世間を騒がせている北海道噴火湾のオオズワイガニ。

「カニがいっぱい獲れているなら、漁業者は高いものが売れて嬉しく、消費者は安く買うことができて、みんなハッピーなのでは?」

しかしそこには水産物流通特有の課題が立ちふさがります。

今回は、オオズワイガニを例にしてその課題を紹介させていただき、その対応策を探っていきたいと思います。

 

オオズワイガニの生産・流通状況

オオズワイガニは高級魚「ズワイガニ(松葉ガニ、など)」に見た目も味もよく似たカニです。

なにも今回の北海道の急増で初めて目にする生き物というわけではなく、「バルダイ種」という名前でロシアやアメリカから輸入されているとのことです。

北海道庁がまとめている統計資料をみると、オオズワイガニは「その他のかに」として分類されているため、詳細な漁獲実績はわかりません。

ただし、2023年度にこの「その他のかに」が急増しているので、この増加分が今回のオオズワイガニの水揚量であるとみることができるでしょう。

北海道のカニの水揚げを30%も押し上げていますから、とんでもない急増です。

 

 

オオズワイガニが大量に漁獲されてなぜ困るのか

沿岸漁業の漁獲物の多くは、漁業者⇒漁協などの卸売市場⇒水産加工業者という「産地市場流通」を経ます。

これらのステークホルダーはそれぞれ役割を担っています。

漁業者は漁獲すること、漁協は漁獲物を集荷し市場で漁業者と水産加工業者の橋渡しをすること、水産加工業者は適切な処理をしたうえで流通を消費地へ繋げることです。

 

魚種によっては、水産加工業者が行う「適切な処理」が水産物流通の要になります。

カニについては、“生きたまま(死後間もない)”か“ボイル”“ボイル冷凍”かの選択を迫られます。

すなわち、「釜揚げする」という「適切な処置」がオオズワイガニの流通拡大にとって重要であるということです。

 

一方、オオズワイガニはいきなり沸いて獲れているので、水産加工業者は「釜揚げ」加工のキャパシティを持ち合わせていません。

当地はケガニの産地でもあるため、いくらかは設備の流用が聞くでしょうが、処理能力が追い付かないのでしょう。

そのため、現状としては「生きたまま届く範囲」で流通させざるを得ない状況です。

そのため、漁獲されたオオズワイガニは流通範囲も限られ、短期間で消費せざるを得ないので、まさに値崩れ状態にあると言えます。

継続して水揚げされるのであれば設備投資も考えられますが、まだ突然獲れ始めて2年ですので、先行きは見えません。

 

また、漁業者からすると、もともとはオオズワイガニを漁獲するつもりのない方法で獲れてしまっています。

さらに、漁獲されるオオズワイガニは小型であるため、なおさら価格が付きづらいようです。そのため、漁具は傷んでしまうわ、値段はつかないわで、まさに厄介者というわけです。

 

水産物流通は継続的な水揚げ展望が大事

いつ、なにが、どれくらい漁獲されるかがわからないのは漁業の宿命といえます。近年は環境変動が激しく、水揚げ状況の急激な変化に水産関連事業者が追い付けない状況が発生しています。

オオズワイガニについては、2年連続で急増している状況を踏まえ、道の試験場が調査に乗り出す予定です。

養殖業に転換するにしても、漁業者と養殖業者は根本的な経営志向が異なることと、養殖適地や適切な養殖魚種の選定など、課題は山積しています。

 

本稿では、課題提起の一環として、沿岸漁業が継続するために、このような状況に求められる地域水産業での対応策を考えてみたいと思います。

 

●汎用性の高い加工機器の開発

いつまで続くかわからないカニのためだけの設備投資ではなく、その他にも使い道がある有用な加工機器であれば、設備投資足りえるかもしれません。

 

●柔軟な地元消費力の創出

流通範囲を拡大できないことを逆手に、「ここでしか、いましか食べられないもの」として地元消費の供給体制を確立できれば、値崩れを少しでも軽減でき、地域内他産業への波及効果も期待できるかもしれません。

 

●ECで産直

漁業者や水産加工業者の手配で直接、消費地の消費者個人個人に発送することで、価格が底上げされることが期待できます。

 

上記の対応策は、技術的な問題なども含めて、アイデアベースに留まりますし、ほかにもいろんなアイデアもあると思います。

この問題は、例えば東北地方などで近年見受けられる「南方系の魚の水揚げ」など、水産物流通における普遍的な課題をはらんでいると考えています。

このような課題に、地域の皆様と一緒になって考えていきたいと思います。

 

水産振興部 主任研究員 奥出裕介

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